Igor Levit, On DSCH

Igor Levit (Sony Classical)    FLAC 96KHz/24bit

9月10日グローバルリリース。Igor Levitの新作はなかなかヘビーで、葉巻で言えばコヒーバ・シグロIVを3本分位の重量級。ショスタコーヴィチ の『24のプレリュードとフーガ』160分とスコットランドの現代作曲家Ronald Stevensonの『On DSCH』80分でCDだと3枚組になる。

『24のプレリュードとフーガ』はショスタコーヴィチ のピアノ曲の最高傑作と言うだけでなく、20世紀のピアノ音楽の中でも傑出したものだ。作曲当時の1950年はソ連の文化締め付けの影響でショスタコーヴィチ の作品群は国内での演奏も許可されない不遇な時期だったが、国外での名声は高まるばかり。

1950年7月ライプチッヒで行われた『バッハ没後200年記念』にソ連代表団として出席して刺激を受けたのがきっかけとなり、バッハの平均律集に倣い24の全ての調性を使う曲集を書くことにした。

ショスタコーヴィチ のほとんどの作品に見られる特有の現代音楽風、コミカル、トリッキーさはなく、バロック的、ロシア的、ユダヤ的なものをベースに作られている。通しで聴いてもいいが、好きな曲をピックアップして聴くのも良い。大ピアニストのリヒテル、ギレリス、また作曲家本人も断片的に選んだ作品を演奏、録音している。それだけ、作風に広がりを持つ傑作集である。

On DSCH. Ronald StevensonはBusoniの弟子でOgdonの先輩。本作品はDmitri Schostakovich の頭文字DSCHを、(D,E♭,C,B)という音名に置き換えたものでショスタコーヴィチが様々な作品の中でモチーフとして使っているのだが、Stevensonは、それを300もの変奏としてこの作品の中に組み込んでいる。1962年にエジンバラフェスでショスタコーヴィチ にその楽譜が献呈された。

Igor Levitによれば、この作品には2016年ごろから興味を持っており、当時企画していたアルバムのどれかと一緒にしたかったのだが、その時はまだ期が熟しておらず無理だった。いくつかの縁があり2018年から本格的に研究するようになり、始めて6ヶ月は苦しかったが、突然開眼したという。今は他に比べるもののないお気に入りだそうだ。

『On DSCH』というタイトル自体については、特別なメッセージ性はなくショスタコーヴィチ にフォーカスしたプログラムと言うだけの意味合いで、まさに、Stevensonのアルバムタイトルが、正鵠を得ていたという理由だと語っている。

『24のプレリュードとフーガ』について、必ず比較されるのが、ニコラーエワの名盤。そもそもショスタコーヴィチ がライプツィヒで彼女の演奏を聴いたのが作曲のきっかけだったわけで、また、曲ができる都度弾いてもらい、初演も行ったので作品解釈としてはこれ以上のものはないだろう。

あとのピアニストはやりにくいと思う。実際、録音自体が数多くあるわけでなく、それなりの覚悟を持たないと出せない。

Sonyclassicalというメジャーレーベルの最重要アーティストであるLevitだからこそ、新たな解釈と卓越した技量で聴き手を納得させることができている。

因みにJazz好きな私は、キースジャレットが1990年代に出したアルバムが透明感のある軽妙なタッチが心地よくとりわけ気に入っていた。もう何年も聴いていないので久しぶりに聴いてみようと思わせてくれた。

2021-742



Classic Music Diary

仕事で年間1,000枚程度クラシック・ジャズのハイレゾ新譜を聴いています。毎日4-6枚試聴する中から気になったものを日記がわりに書き留めていこうと思います。

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